認知症の方のための住環境の工夫
認知症になると、その状態にもよりますが、住み慣れたはずの家の中で迷ったり、いつも使っている物の使い方が分からなくなったりしてしまうことがあります。認知症の方をサポートする方々が、その人の暮らしを良くしようと考えても、なかなか分かりにくい部分もありますよね。そこで今回は、誰でも少しの工夫でできる、認知症の方のための住環境の工夫についてご紹介します。
認知症の方にとって「分かりやすさ」は重要
私たちが普段、ショッピングセンターや駅などでも問題なく目的地にたどりつけるのは、その道順や手順を覚えていたり、目印を探して理解し、行動ができるからです。しかし、認知症になると、最近覚えたことが思い出しにくくなり、途中で「ここはどこなのか」「何をするためにここにいるのか」「これから自分はどうすればよいのか」が分からなくなることがあります。
「分かりにくい」家が認知症の方にどう影響する?
こうした気持ちは、その人を不安にさせ、混乱させたり居心地を悪くさせます。人によっては落ち着きがなくなったり、イライラしたり、怒ったり、泣いたりといった様子も見られるでしょう。人によっては、自分の家ではないと錯覚して、家を飛び出してしまうことも。
家の中でこのようなことが起こると、「トイレの場所が分からなくて排泄に失敗してしまった」「水道の使い方が分からず水を出せなかった」など様々な問題がでてきます。
視覚による情報の認識が変化することも
認知症になると、人によっては物の形や奥行き、色、質感などにも変化が生じると言われています。そのため、一緒に暮らす他の家族と認知症の方とでは、物の見え方や感じ方が違うかもしれない、と理解してあげる必要もあるでしょう。
少しでも、認知症の方が家で快適に安心して暮らすために、まずは「分かりやすい」環境を整えてみてはいかがでしょうか。
認知症の方にとっての「分かりやすい空間」とは?
それでは、認知症の方にとって「分かりやすい空間」にするための工夫を紹介します。
色を使って分かりやすくする
ドアと壁の色にメリハリをもたせる、ドアノブの色を目立たせる、テーブルや椅子とカーペットとの色のコントラストをはっきりさせるといった、色の効果的な使い方によって、認知症の方の移動をスムーズにしたり周囲がよく見えて認識するのを助けたりします。
文字によって分かりやすくする
時計やカレンダーの文字が大きく太く書かれているものに変える、調味料などにラベルを貼る、蛇口に”水”や”湯”などのラベルを貼る、ゴミの分別ができるよう文字や絵で分かりやすく記載するなど、文字によって認識が助けられる場所はたくさんあります。トイレのドアに「トイレ」と書いたり、トイレの絵を貼るだけでも分かりやすくなりますよ。
夜に起こりがちな混乱に対処する
夜は、昼とは違い、周囲が暗くなることでより一層周囲が認識しにくくなります。センサーで反応するライトを設置して、電気のスイッチが分からなくなっても安全に移動できるよう対処するのも1つの方法です。また、トイレにつながるドアはあけて廊下の電気をつけておくのもおすすめです。
選択肢を少なくする
着替えや調味料、洗剤など、選択肢を最小限にすることが混乱を軽減することにつながる場合もあります。本人の意思を尊重しながら、本当に必要なものだけ残してスッキリさせ、迷わないようにしてあげると良いでしょう。
見えなくする工夫もアリ
操作されると困るボタンや、冷蔵庫の開けっぱなし問題などには、カーテンや布などで見えにくくすることで困った行動が少なくなる例もあります。しかし、目に見えるのに操作できない・開けられないといった状態はかえって混乱を招く恐れがあり、ただ鍵をかけるのは逆効果になることもあるため注意が必要です。
環境を変えるタイミングにも要注意
最近は、ご高齢の方でも使いやすい・分かりやすい製品がたくさん販売されていますね。できるだけ安全に調理ができるように、ガス火ではなくIHにしたり、シンプルな操作で使える電話機に変えたりすることで、生活が楽になる方はたくさんいます。
しかし認知症になると、新しいことを覚えて順応することが苦手になります。複雑そうに見えるものも、本人にとって慣れたもので問題なく使えるのであれば、かえって新しくしない方が混乱を招かずに済むケースもあります。
この見極めは、非常に難しく専門的な知識も必要になるでしょう。もし、認知症の方のための住環境を整える上で心配なことがあれば、専門医やかかりつけ医、介護の専門家などに相談すると安心です。
住環境の工夫が認知症の方の不安を和らげることもある
一見、住環境とは関係ないような認知症の方の不安からくる行動も、実は原因を探れば環境面の問題だった、ということは珍しくありません。認知症の方の症状は時が経てば変わっていくことも多いですが、目の前の症状に困っているときは環境面についても目を向けてみてはいかがでしょうか。もちろん、家族だけですべてを行うことは困難です。介護のプロなどに相談したり、便利なサービスを利用したりして、一緒に暮らす方もしっかりと休みながら行っていきましょう。