自立支援につながる住環境の工夫
介護が必要になりサポートを受けていたとしても、出来ることは自分でやりたいと思われる方は多いでしょう。要介護者を支える家族としても本人に出来ることが増えれば助かる場面も多く、また、「出来る」と喜べる場面が増えることは、気持ちを前向きにしてくれることにもつながります。バリアフリーの病院や介護施設とは違い、家の中では難しい部分もあるかもしれませんが、ちょっとした工夫をすると「出来ない」が「出来る」に変わることもあるのです。ここでは、自立支援につながるちょっとした住環境の工夫の例を紹介していきます。
畳からベッドに変えてトイレが間に合うようになった
これまでの生活を変えることは、人によっては抵抗が大きいものです。ずっと畳の上にお布団を敷いて眠っていた方にとっては、ベッドを利用することに抵抗をおぼえるかもしれません。
しかし、床からの立ち上がりは、高齢の方にとって負担の大きい動作です。時間をかけてゆっくり行っている最中に、トイレが間に合わなくなるというケースも少なくありません。
思いきってベッドを導入したところ、立ち上がりがスムーズになりトイレも間に合うようになったという例も多いです。
ベッドの引き出しを撤去したら自分で立てた
ベッドから車イスへの移乗動作に介助が必要な場合、ご本人の立つ力があるのとないのとでは、介護をする人の負担が大きく変わります。
「立つ」という動作は、足を少し後ろに引いて踏ん張る必要があります。私たちは普段、この動作をあまり意識せずに行っているため、介護をする際もつい見落としがちです。
車イスや食卓の椅子からなら立ち上がれるのに、ベッドから立ち上がれない状況にある方は、ベッドそのものを見直すと良いでしょう。
もし、マットレスの下が収納になっているベッドをお使いなら、試しに引き出しを撤去するか、介護用のベッドに変えてみてはいかがでしょうか。ベッドの下が空洞になることで、本来の「立つ」という動作がとりやすくなり、ご本人の力で立てるようになるかもしれません。
スプーンに握りやすいグリップをつけたら自分で食べることができた
手先の細かな動作が難しくなって、食事を口に運ぶことが難しくなることもあるでしょう。最近は福祉用具の専門店だけでなく、100円ショップなどにも介護用のアイテムが販売されています。こうしたお店を覗いて、役立ちそうなものを試してみるのもおすすめです。
スプーンやフォークは箸の使用が難しくなった時に便利ですが、持ち手が細すぎて握れないという人もいます。太くてしっかり握れるグリップ付きのスプーンやフォークなら握れる場合、これまで必要だった食事の介護が必要なくなり、自分のペースで食べたい順番に食べられるという充足感も得られます。
車イスのレバーを長くしたら自分でブレーキがかけられた
麻痺や欠損などでどちらかの手が不自由になった時、車イスの片方のブレーキはかけられても、もう片方は手が届かないという例もあります。
本人の状況に応じて、レバーにサランラップの芯などを挿して長く使えるようにすると、両方のブレーキが自分でかけられるようになる可能性があります。特に、1人で車イスへの乗り移りをされる場合、両方にブレーキがかけられることで安全性が増します。
タオルやクッションを使って姿勢を正したら普通食が食べられるようになった
高齢になり飲み込む力が低下したり、病気の後遺症によって飲み込みが難しくなったりすると、窒息や誤嚥のリスクを減らすために飲み込みやすい形状の食事をとらざるを得なくなるかもしれません。
人によっては、ミキサーにかけて流動食にしたり、ゼリーのような状態にしたり、飲み込むことが困難なら胃ろうから栄養をとることもあるでしょう。
飲み込みの力は、正しい座位姿勢がとれるかどうかで大きく変わる可能性があります。クッションなどを利用して姿勢の傾きを修正したところ、飲み込む力や安定性が増し、流動食から普通食へ向上したという方もおられます。
スマート家電を利用する
リモコンひとつ、スイッチひとつで操作できることが増えると、誰かの助けを借りずに自分でできることが増えます。テレビや照明、戸締まり、エアコンなど、便利な製品に頼るのもひとつの方法です。
最近は、電気ポットでお湯を沸かしたら離れた場所に暮らす家族へその情報が届き、安否が確認できるなど、非常に便利な製品も出てきています。同居をしている家族にとっても、外出時の不安を和らげてくれるでしょう。
専門職に確認しながら住環境の工夫をしよう
要介護状態になると、これまでとは違いサポートが必要になる場面は増えます。しかし、何もかも出来なくなるわけではありません。それぞれの方が、できる力を使って自分で行えることを行うことが、自立支援につながります。しかし、その見極めはなかなか難しい部分もあり、さらに住環境のちょっとした工夫のアイデアは、限られた知識では思い付かないことも多いです。ぜひ、医療や介護の専門職にアドバイスをもらって、ご本人の状況を踏まえた上で適切な環境をつくっていきましょう。