家庭でできる移乗介助!身体への負担が少ない方法とは?

 家で介護をしていると、「この方法で合っているのかな」「ちょっと怖いな」「腰が痛くて…」など、不安や負担を感じることもあるでしょう。慣れによって解消できる不安もあるかもしれませんが、コツを理解して行うともっと楽になり、身体の負担も減ります。ここでは、家庭で介護を頑張っている人のために、移乗の方法についてご紹介します。

「移乗」とは?

 

家庭での介護では、そもそも「移乗」という言葉をあまり使いませんよね。移乗とは、ベッドから車イスに移ったり、車イスからトイレに移ったりする動作のことを言います。つまり、移乗介助は、こうした移乗の際のサポートを行うことを指します。

 

 移乗は、端から見ると簡単な動作に見えるかもしれません。しかし、実際に介護をしてみると、意外と介助者(介護をする側)の負担が大きいことが分かります。移乗介助をしていて腰を痛めてしまった、支えきれずに一緒に転倒しそうになってしまったなど、ヒヤリとした経験がある方も多いのではないでしょうか。

 

 移乗介助は、いくつかのポイントを押さえると、介助者と介護を受ける人の両方の負担を少なくすることができます。意外と教わることの少ない移乗介助のコツを知ることは、色々な安全を守るという意味でも大事です。

 

 

移乗介助を家庭で無理なく行うコツとは?

 

まず、移乗介助で意識しておきたいポイントを把握しておきましょう。

 

介助者はできるだけ前かがみにならない工夫をする

腰への負担は、介護全般に関わってくる問題でもあります。プロの介護スタッフでさえ、腰痛に悩まされている人は少なくありません。移乗介助は、特に腰への負担が心配な動作です。腰痛対策を行って介助することは、介助者の健康を守ることにもつながります。

 介助者の腰痛予防の大原則は、「前かがみ(20度以上)の作業を長時間しないこと」です。ベッドに寝ている方の介助は、ベッドを高くして前かがみにならないようにする、ベッドが高くならなければ、介助者がひざをベッドに乗せてお手伝いをするなどの対策が有効です。

 

介護される人の力も使う

介護される方が持っている力を使えば、介助する側の負担も少なくなります。移乗介助でも、それは同じです。例えば、少しだけでも介護される側の人が足を踏ん張れれば、介助者にかかる体重が減りますね。

 介助をする時は、これから何をするのか声をかけて理解してもらって、相手の力が発揮できるような環境を整えてあげましょう。

 

便利な道具を上手に使って

介護に役立つ道具は、たくさんあります。道具を使うことは、一見手間が増えて大変に思うかもしれませんが、慣れてしまえばメリットも大きいと感じるでしょう。道具を使うことで、介護する方もされる方も、ラクに、そして安全に移乗できることもあります。

 

移乗介助の前にすべきこととは?

 さて、移乗介助のポイントが分かったら、その次は準備を行いましょう。準備といっても、さほど特別なことはありません。要は、移乗しやすい環境を整えることです。

 

  • 移乗のジャマになるものはよける

ベッドからの移乗介助の際は、お布団をジャマにならないようによけたり、柵をはずしたりして準備しましょう。足元がすべる場合は、すべり止めマットの活用やすべりにくいシューズを履いてもらうがおすすめです。

 

  • 車イスの準備をする

これもとても重要なポイントです。車イスへの移乗の際は、ブレーキをしっかりとかけましょう。そして、状態によっては、車イスの肘かけや足置きを外しておくとスムーズになります。立ち上がる力がある方を介助する場合は、肘かけや足置きはそのままでも大丈夫なこともあります。

 

 

ベッドから車イスへの移乗方法~全介助の場合~

 それでは、ベッドから車イスに移乗する際の方法を解説します。今回は、自力で立つことが難しく、全介助の状態の方を想定してご紹介します。

 

1.移乗の環境を整える

ベッドよりも車イスが高いと、介助者が持ち上げなければならなくなり、負担が増えます。そのため、ベッドは車イスの座面よりも高い位置に調整しましょう。車イスの肘かけと足置きは外して、車イスをベッドの近くに寄せます。車イスの位置は、ベッドに対してななめ30度くらいになるように置いておくと便利です。

 

2.起き上がりの介助をしてベッドに浅く座ってもらう

 

車イスに移る前に、ベッドの端に座って足を床につけるように介助します。浅く座ってもらうには、深く座っている状態から座り直さなければなりません。ここで無理に抱えてしまうと、負担が増すため注意が必要です。介護される人の体を、サポートしながらどちらかに傾けてお尻を浮かせ、浮いた側の腰に手をあてて手前に押すとスムーズに行えます。ただし、姿勢が崩れやすい人などは、浅く座ることが危険な場合もあります。無理に行う必要はありません。

 

3.ベッドから落ちないように支えながら車イスを寄せる

介助者は、両足を開いて腰を落として立ち、車イスを置く方に近い足を介護される方の膝に当ててずり落ちないようにブロックします。その際、片方の手で背中や肩を後ろから支えて、座位が保てるようにします。車イス側の手で、ベッドの近くまで車イスを寄せましょう。

 

4.介護される人を前傾姿勢にする

例え全介助の方であっても、この段階を踏むことでグンと移乗しやすくなります。車イスへ移る前に、脇や背中に手を入れて前かがみにさせることで、重心を足にうつし、ベッドへの圧を減らします。

 

5.膝が折れないようにアシストしながら車イスへ

前傾姿勢を保ってもらったまま、ベッドから車イスへスライドするように移乗します。この時、膝がカクンと折れて尻もちをついてしまわないように、膝を当ててサポートします。介助者の右側に車イスがある場合は、介助者の左膝が相手の右膝にくるように。車イスが左側なら、その逆になります。スライドするタイミングで、膝を少し押すようにすると良いです。

 

6.車椅子に深く座ってもらう

車イスへの移乗後は、肘あてを戻して、深く正しい姿勢で座れるように整えます。背もたれとの隙間がないように、お尻の位置が前に出ないように座り直し、姿勢が傾いてしまう場合はクッション等を挟んでラクに座れるように調節してあげましょう。足置きは、車イスで移動する際に足の巻き込みを防ぐ役割があるため、移動時には装着して足を乗せてから動きましょう。

 

 

家庭での移乗介助は、両方がラクで安全な方法を

 

 今回は、家庭で行う負担の少ない移乗方法についてご紹介しました。移乗は、介助する人の負担が大きい動作のひとつです。無理に行うと、腰などを痛める原因にもなり、家庭での介護そのものが難しくなってしまう恐れもあります。できるだけ負担を減らし、安全に移乗介助をすることを意識して、無理のない自宅生活を送っていきましょう。