座ることで食が進む—高齢者のためのダイニング環境の工夫
誰にとっても、食べることは生きることにつながり、体をつくる源となります。栄養バランスが偏ったり食欲がなくなったりすると、元気をなくし抵抗力が弱まり病気にかかりやすくなるなど、様々な悪影響を及ぼします。高齢者の場合、食が細くなる原因は若い世代よりも増える傾向にあり、特に注意が必要です。色々な原因を探して対処しても食が進まない時は、環境面の見直しも有効です。今回は、高齢者の食が進みやすくなるようなダイニング環境についてご紹介します。
なぜ高齢者は“食が進まなくなる”のか?
 高齢になると、噛む力や飲み込む力が弱くなり、固いものや大きいものが食べにくくなります。これは、歯の問題や顎の力、筋肉などが関係します。また、体力が弱くなると、食べることにも大きなエネルギーを必要とし、途中で疲れて食べたくなくなることもあります。
さらに、食べる姿勢によっては、食べにくさを感じて、飲み込むことへの不安感を感じる方も珍しくありません。孤独感を感じやすい人は、寂しさから食が細くなる場合もあるでしょう。
高齢者の食が細くなる原因は様々ですが、座る姿勢や環境によっては食事量だけでなく食への満足感にも影響を及ぼすため、安全に楽しく毎日の食事をとるためには環境面を考えることも重要なポイントです。
高齢者が 「美味しい」と感じやすい姿勢とは

高齢者が少しでも安全に「美味しい」と感じながら食事をするためには、以下のポイントを意識した姿勢をつくることが重要です。
・背筋がまっすぐに伸びている
・顎を軽く引ける
・足の裏が床にぴったりとつけられる
・食卓がしっかりと見渡せて目で楽しむことができる
背筋が曲がっていると、胃が圧迫されて食欲が減少しやすくなります。また、左右のどちらかに傾いたまま座ると、余計な力が入り疲れやすく、飲み込みにくい状態にもなります。また、顎が軽く引けるような姿勢を保持することも大切なポイントです。こうすることで、食べやすく飲み込みやすくなります。
足を床にぴったりとつけることは、安心感をもたらしリラックスしやすくなります。姿勢が安定し気持ちが落ち着くことで、食事の味わいにも影響するでしょう。食器の色や料理がしっかり見えるようにテーブルの高さを工夫するのもおすすめです。食事が見えやすくなることで、食事を目から楽しむことができ、「美味しい」と感じやすくなります。視力が低下している方には、お茶碗を白色以外にするなどして、見えやすいように工夫してあげましょう。
食欲を支える椅子とは
先程、食事の際は姿勢が重要だとお伝えしました。良い姿勢を保つためには、椅子選びがとても大事です。座面の高さは座った時に足の裏がちょうどぴったりつく高さにし、背もたれの角度は90~100度程度のものを選びましょう。
姿勢の保持や長時間の座位が難しい方には、肘掛けのある椅子や体圧を分散できるクッション性に優れた椅子もおすすめです。椅子にはキャスター付きのものもありますが、これは人によっては便利ですが、場合によっては座り損ねて尻もちをつくリスクもあります。注意点を踏まえて、本人が扱いやすいかどうかを見極めて決めましょう。
食欲を支えるテーブル

テーブルの高さや奥行き、素材も高齢者の食事を支える上で重要です。椅子に座った状態で、腕が自然に曲がる高さのものを選びましょう。奥行きが長く幅の狭いテーブルだと、座ったままで手が届かない位置にお皿を置くことになるため、こうした点にも注意が必要です。
木目調のテーブルは、食器によく用いられる白色が映えるため、食欲を刺激することができます。ナチュラルな風合いでインテリアにも馴染みやすく、リラックスできるでしょう。さらに、いつも清潔に保てるように、お手入れがしやすい素材のものがおすすめです。
その他のアイデア
日本人は季節に合わせた雰囲気づくりや旬の食材を取り入れることが、習慣として根付いています。テーブルクロスやランチョンマットは季節に合わせて色を変えたり、季節の花を飾るなどの工夫をすると、より食事を楽しく大切にしようという気持ちになりやすいでしょう。
旬の食材を用いた料理を取り入れ、美味しそうな香りが漂う空間は、自然と食欲をそそります。香りがしっかりと楽しめる料理を検討するのもおすすめです。
人によっては、手先の細かな動きが難しくなる場合もあります。スプーンやフォーク、お箸といったカトラリーは、持ちやすく扱いやすいものを選びましょう。食器の色については、白をベースとして赤色や橙色といった暖色系を取り入れると、料理が映えて食欲増進につながるかもしれません。
正しい姿勢で座って食事を楽しめる環境づくりを

正しい姿勢で座って食べることは、誤嚥のリスクを減らすことにもつながります。高齢者の食事は、メニュー選びだけでなく、環境づくりもとても大切です。食が細くなったり、食べにくい様子が見られたりする場合は、環境面で何か工夫できることはないか確認してみてはいかがでしょうか。ぜひ、今回ご紹介した内容も参考にしてみてくださいね。
